空調システムのエネルギー消費量は、建物全体のエネルギー消費量のなかで、多くの割合を占めています。今までより省エネルギーでCO2(二酸化炭素)排出量の削減を目指し、空調システムの開発や導入が進められています。そのなかの一つとして、放射パネルを天井面や床面・壁面に組み込んで空調を行うシステム(放射空調)があります。
放射パネルによる空調は、放射パネルの冷却・加熱方法や冷房時の除湿方法を工夫することで、冷風・温風による一般的な空調方式と比べて、省エネルギーを図ることができるといわれています。室内温熱環境の快適性も優れていますが、放射パネル空調を効果的に使用するため、快適性の事前予測・評価を行い、計画・設計が問題ないことを確認することが重要です。
弊社の温熱環境シミュレーションは、形態係数の算出・放射計算やガラスの条件設定を精度良く行うことができるため、放射パネルを用いた空調システムの室内温熱環境評価にも活用できます。
ここでは、個室の事務室を想定し、放射パネルを天井面に設置した場合としない場合の、冷房時における室内温熱環境の解析例を紹介します。
計算条件
計算条件は次の通りです。南面のみ外気に面した窓(Low-E複層ガラス)・外壁とします。室内平均温度が約28℃となるように、吹出口・吸込口の風量を設定しました。
- ・外界条件
8月1日(12時)
外気温度:33℃ - ・室内設定温度
28℃ - ・内部発熱条件
人体発熱:116W(2人)
機器発熱:108W(54W/2台)
照明発熱:200W(20W/m2)
熱貫流率[W/m²K] | 隣室参照温度・外気温[℃] | |
---|---|---|
外壁 | 0.92 | 33.0 |
内壁 | 2.87 | 28.0 |
床面 | 1.33 | |
天井面 | 1.33 |
空間温度分布
下記の図は中央部鉛直断面の温度分布です。放射パネルなしの場合は、日射により暖められた空気が天井付近に溜まっています。放射パネルありの場合は、窓面に沿って上昇した気流が天井面のパネルで冷やされるため、上下温度差が少ない温度分布になります。なお、風速は放射パネルあり・なしともに、ほとんど変わりませんでした。
温度コンター・気流ベクトル図
ケース1:放射パネルなし
温度コンター・気流ベクトル図
ケース2:放射パネルあり
表面温度分布
下記の図は表面温度分布です。ケース1・ケース2ともに、窓面付近の床面は直達日射により温度が上昇しています。
放射パネルありの場合は、天井面の放射パネルにより壁面や床面・窓面が直接冷却されるため、放射パネルなしと比較して全体的に表面温度が低下します。また、吹出口の吹出風速を放射パネルなしの場合より弱めていますが、東面の壁表面温度がより低下していることが判ります。
表面温度分布(窓面を望む)
ケース1:放射パネルなし
表面温度分布(窓面を望む)
ケース2:放射パネルあり
MRT・PMVの比較
ガラス面からの距離が1.25m(室内中央)、床面高さ1.0mの位置でMRT・PMVを算出しました。
MRTは、放射パネルありの場合、放射パネルなしの場合より約2℃低下しました。
PMVは、放射パネルなしの場合は1.0を超えているのに対して、放射パネルありの場合は、0.4低下し、快適域(-0.5~PMV~0.5)に近づいています。
ガラス面からの距離が1.25m(室内中央)、床面高さ1.0mの位置でMRT・PMVを算出しました。
MRTは、放射パネルありの場合、放射パネルなしの場合より約2℃低下しました。
PMVは、放射パネルなしの場合は1.0を超えているのに対して、放射パネルありの場合は、0.4低下し、快適域(-0.5~PMV~0.5)に近づいています。
MRT・PMVの算出結果
温度[℃] | MRT[℃] | PMV | |
---|---|---|---|
ケース1:放射パネルなし | 27.7 | 30.3 | 1.02 |
ケース2:放射パネルあり | 27.6 | 28.2 | 0.62 |
MRTは、ガラス面からの距離が1.25m(室内中央)、床面高さ1.0mの位置に配置した微小立方体の各面における値の平均値とした。PMV算出の温度・MRT以外の条件は、代謝量:1met、着衣量:0.48clo、相対湿度:50%Rh、気流:0.1m/sとした。
温熱環境シミュレーションを用いて、放射パネルを用いた空調の解析事例を紹介しました。弊社では、シミュレーションのほかに温熱環境の簡易予測システムによる快適性評価や、簡易解析システムの開発も手がけています。
形態係数・放射計算を高精度に算出できる温熱環境シミュレーションを、快適かつ省エネルギー性に優れた放射パネル空調システムの計画・設計・評価に活用いただければ幸いです。