Archived Materials資料室

日射条件設定の重要性について

開口部からの日射負荷を考慮した温熱環境シミュレーションを行う場合、日射負荷の設定方法として、以下の2つが考えられます。

  • ・空間内部へ到達する日射量を算出し、体積発熱として与える
  • ・直達日射が到達する床面や壁面に、面発熱として与える

日射分布を算出することができない解析ソフトを使用する場合、空間要素に体積発熱として日射負荷を与えて計算することが考えられます。
当社では、建物方位、日時、緯度・経度、ガラス日射性能値を考慮し、詳細に空間内部への到達日射分布を算出して、床面や壁面に面発熱として条件を与え計算しています。
そこで、日射負荷の設定方法の違いで、シミュレーション結果にどのような違いが生じるか検証を行いました。
シミュレーション条件の違いは日射負荷の設定方法のみで、その他の条件は同一です。
シミュレーション条件を表1~表3に示します。シミュレーションモデル(図1)は、西側にガラスがある住宅の1室です。ガラスは透明複層ガラスで、カーテンはありません。

表1 シミュレーション条件

シミュレーション日時 外気温度 ガラス品種
8月1日15時 35.9℃ 透明複層ガラス(3mm+A6+3mm)

表2 透明複層ガラスの性能値

透過率 74.4%
吸収率 11.9%
反射率 13.7%
日射熱取得率 0.79
熱貫流率 2.9 W/(m²・K)

表3 空調条件

吹き出し温度 18.0℃
吹き出し風量 660m³/hr
吹き出し風速 2.8m/s


図1 シミュレーションモデル

日射条件の設定方法

  • 体積発熱のケース
    8月1日15時における西側鉛直面に到達する日射量を求め、この日射量に対し、式1の計算式で室内への日射熱量を算定し、この日射熱量を図2に示した空間要素に体積発熱として与えました。
    体積発熱を与える空間要素は、室内奥行き方向は日射が到達する位置である窓面から2mとし、横幅は窓面と同じ幅、高さも窓面と同じ高さの立方体としました。
    立方体の体積:10.7m³
    •  室内への日射熱量=西側鉛直面到達全日射量×日射熱取得率×窓面積 …式1
    •  室内への日射熱量=562.8W/m²×0.79×4.8m²=2,134.1W
  • 詳細日射のケース
    当社で通常使用している日射計算ソフトを用いて、空間内部への直達日射分布を算出しました(図3)。
    図3に記載した熱量は直達日射と窓面からの再放熱成分の値であり、天空日射、室内壁間の相互拡散日射を加味すると、空間内部への日射による熱負荷(短波)は1,946.2W(天空日射89.2Wを含む)、窓面からの再放熱成分(204.4W)を加えた室内への日射熱量は合計2,150.6Wになります。

    • 図2 体積発熱で日射負荷を入力した
      ケースでの体積発熱入力位置


    • 図3 詳細に日射計算を行った
      ケースでの直達日射分布図

表面温度分布の比較

図3は体積発熱ケース、図4は詳細日射ケースの表面温度分布図です。
体積発熱ケースでは、壁面に日射の負荷は反映されておらず、全体的に30℃前後の表面温度になっています。
一方、詳細日射ケースでは、日射が到達している床面で表面温度が40℃を超えており、ガラス面では38℃前後の表面温度になっています。


  • 図3 体積発熱ケース


  • 図4 詳細日射ケース

空間温度分布の比較

図5は、体積発熱ケース、図6は詳細日射ケースの空間中央付近の温度分布です。
体積発熱ケースでは、窓近傍の空間で30℃前後に、空間上部では32℃~33℃程度の温度分布になっています。
一方、詳細日射ケースでは、空間内部は全体的に28℃前後の分布になっており、窓近傍の床面付近で35℃以上の分布が、天井近傍でも35℃以上の分布が見られます。
空間内部の平均温度を比べると、体積発熱ケースが29.6℃、詳細日射ケースが27.8℃と、2℃程度体積発熱ケースが高くなっています。
体積発熱ケースの方が空間内部への日射負荷熱量がほぼ同じにもかかわらず、空間平均温度が高くなっているのは、体積発熱で日射負荷を設定すると壁面温度が低くなるため、壁面を通じシミュレーション空間外部へ貫流伝熱によって放熱されることがほとんどなくなり(表4)、設定した負荷のほとんどが空間内部にかかるためです。


  • 図5 体積発熱ケース


  • 図6 詳細日射ケース

  貫流伝熱量 [W]
体積発熱ケース 68.9
詳細日射ケース 488.4

MRTとPMVの比較

次に、MRTとPMVを算出した結果を示します。
ガラス面からの距離0.5m、床面高さ1.0mの位置に微小立方体を配置し(図7)、MRT(各面の平均値)を算出しました。気流温度、MRT以外の条件は両ケースとも同一として、PMVを算出しました。

〈気流温度、MRT以外のPMV算出条件〉
代謝量:1.0met
着衣量:0.4clo
風速:0.2m/s
相対湿度:50.0%


図7 PMV算出微小立方体位置

表2 MRTとPMVの結果

  気流温度 [℃] MRT [℃] PMV
体積発熱ケース 29.8 29.5 1.24
詳細日射ケース 27.1 37.0 1.82

以上の結果から、室内温熱環境における最大の熱負荷である日射負荷を空間体積に与えると、日射の影響が壁面に反映されないため、気流温度は高くなるが壁面温度が低くなり、MRTとPMVが詳細日射ケースより低い結果になってしまうことがわかります。