開口部に複層ガラスを用いた室内の温熱環境シミュレーションを行う際に、複層ガラスの性能値としてカタログ等に記載されている吸収率(室外側ガラスと室内側ガラスの吸収率を合わせた総合吸収率)をそのまま使用すると、正しい結果が得られません。
シミュレーションモデルを作成する場合、透明な2枚の複層ガラスそのものをモデル化することはできないため、条件の設定方法に工夫が必要になるのです。
例えば、Low-E複層ガラス 日射遮蔽型(室外側ガラスの空気層側にLow-E膜…図1)と透明複層ガラス(図2)のシミュレーション結果を比較すると、その違いが顕著に現れます。
図1 Low-E複層ガラス(日射遮蔽型)
図2 透明複層ガラス
表1 シミュレーションで使用したガラスの性能値
日射透過率 [%] |
日射吸収率 [%] |
日射反射率 [%] |
日射熱取得率 | 熱貫流率 [w/m²k] |
|
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Low-E複層ガラス(日射遮蔽型 LQ3+A12+FL3) | 36.9 | 23.6 | 39.5 | 0.40 | 1.65 |
透明複層ガラス(FL3+A12+FL3) | 75.7 | 10.8 | 13.5 | 0.80 | 2.91 |
板厚は室外側ガラス、室内側ガラスともに3ミリ、空気層は12ミリ
シミュレーション日時 | 8月1日15時 |
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外気温度 | 33.7℃ |
吹き出し温度 | 21.0℃ |
吹き出し風量 | 660m³/hr |
吹き出し風速 | 3.5m/s |
図3 シミュレーションモデル
間違ったシミュレーション結果の例
図4と図5の結果は、カタログに記載されている性能値(表1)をそのまま使用した場合の表面温度分布と空間中央付近の温度分布の結果です。
図4は【1】Low-E複層ガラス(日射遮蔽型)、図5は【2】透明複層ガラスの条件で計算した結果です。
室内側ガラス表面温度は、【1】Low-E複層ガラス(日射遮蔽型)は41℃程度に、【2】透明複層ガラスは39℃程度と、Low-E複層ガラス(日射遮蔽型)の方が2℃程度高くなっています。これは、【1】Low-E複層ガラス(日射遮蔽型)の方が、【2】透明複層ガラスよりも吸収率が高いことに起因します。
しかし本来、Low-E複層ガラス(日射遮蔽型)は、室外側ガラスで日射を多く吸収するため、室内側ガラス表面温度は低くなるはずです。つまり、【1】、【2】のシミュレーション結果は、正しい室内表面温度がシミュレーション結果に反映されていないといえます。
図4 【1】Low-E複層ガラス(日射遮蔽型)
(吸収率はカタログ値使用)
図5 【2】透明複層ガラス
(吸収率はカタログ値使用)
正しいシミュレーション結果の例
次に、複層ガラスの吸収率を工夫して与えた場合の結果です。図6では【3】Low-E複層ガラス(日射遮蔽型)、図7は【4】透明複層ガラスの条件で計算した表面温度分布図です。
図6の【3】Low-E複層ガラス(日射遮蔽型)の条件では、室内側ガラス表面温度は32.5℃程度に、図7の【4】透明複層ガラスの条件では、ガラス表面温度は37℃程度になっています。Low-E複層ガラス(日射遮蔽型)のガラス表面温度が、透明複層ガラスより4℃程度低くなっており、正しい室内側ガラス表面温度がシミュレーション結果に反映されています。
図6 【3】Low-E複層ガラス(日射遮蔽型)
(吸収率は修正値使用)
図7 【4】透明複層ガラス
(吸収率は修正値使用)
次に、MRTを算出した結果を示します。
ガラス面からの距離0.5m、床面高さ1.0mの位置に、一辺が0.2mの立方体を配置し(図8)、立方体に入射する直達日射を考慮した各面平均のMRTを算出しました。
図8 PMV算出微小立方体位置
吸収率の設定 | ガラス条件 | 気温 [℃] |
MRT [℃] |
|
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【1】 | 吸収率はカタログ値使用 | Low-E複層ガラス(日射遮蔽型 LQ3+A12+FL3) | 29.4 | 39.7 |
【2】 | 透明複層ガラス(FL3+A12+FL3) | 30.0 | 45.6 | |
【3】 | 吸収率は修正値使用 | Low-E複層ガラス(日射遮蔽型 LQ3+A12+FL3) | 26.7 | 36.2 |
【4】 | 透明複層ガラス(FL3+A12+FL3) | 29.9 | 45.3 |
カタログ値をそのまま使用した結果【1】、【2】では、Low-E複層ガラス(日射遮蔽型)より、透明複層ガラスのMRTが6℃程度高くなっています。これは、透明複層ガラスの透過率がLow-E複層ガラス(日射遮蔽型)より高く、建物内部へ透過する日射量が多いため、床表面温度やMRTを算出した立方体へ到達する直達日射が多くなり、高くなったものと考えられます。
一方、工夫した値を使用した結果【3】、【4】では、両者のMRTの温度差は9℃程度とさらに大きくなっています。これは、透過日射量の扱いは【1】、【2】と同じであるものの、【3】と【4】は、室内側ガラス表面温度が正しく計算されており、ガラスからの放射の影響が正しく評価されたことによります。
吸収率の与え方によっては、正しい結果を得ることができなくなってしまいます。したがって、特に複層ガラスの条件設定には注意が必要です。